◇建築基準法は最低限の基準

日本では建物を建築する時には、建築・管理・届け出に関する基本的な法律である「建築基準法」という法律に基づく必要があります。ところが注意をしなければいけないのは、建築基準法はあくまでも“最低限の基準”ということです。その意味するところは、住宅建築の自由は国民の基本的人権の一つであり、国が介入することは最小限度であるべきという考えからです。最低限の基準ですから、大きな地震や建築工学の進展があると見直しがされます。戦後の昭和25年に制定された建築基準法ですが、当時は住宅が絶対的に不足をしていた時代なので、「壁には筋交いを入れる」程度の簡易なものでした。その後大きな地震があるたびに大きく見直しがされています(ちなみに近代日本における建築に関する最初の法律は、大正8年に制定された「市街地建築物法」で、手続きの申請窓口は役所ではなく警察でした)。

 

◇日本の建物の寿命が短いわけ

よく賃貸住宅と持ち家どちらがよいか、という議論があります。その際に住宅ローンが終われば持ち家はコストがかからないと勘違いをされているケースが見受けられますが、実際はそんなことはありません。建築基準法に従えば、住宅の構造躯体の耐久性は25年~30年程度とされているとおり、建物を長持ちさせるためには相応の維持・修繕コストがかかることになります。特に木造住宅では10年を目途に修繕費用を見込んだファイナンスプランを立てる必要があります。適切な維持管理をしないと建物は30年程度でかなり老朽化が進むということですが、では何故日本の住宅耐久性は30年程度なのでしょうか、そのヒントは日本人の寿命にあります。昭和22年頃の日本人の平均寿命が男性50.6歳、女性53.9歳で、昭和25年に制定された建築基準法で想定する建物の耐久年数は当時の日本人の寿命を参考にしていたと考えられます。日本の建物は最低限一世代で役目を終えるように考えられていたのです。何世代にも亘って家を住み続ける西欧と比べると家に関する考え方が淡白なようにも感じられますが、高温多湿の日本の風土と木造建築が主の日本の家づくりでは致し方ない事でしょう。しかし近年になり新たな問題が浮上しました。日本人の高齢化と地震の多発です。

 

◇日本の建物の新たな問題

日本人の高齢化については前稿でも書いたとおり人生100年時代が間近に迫っています。人生を健康に長生きする期間が伸びているのに、住む家が古く、安全・安心でないものでは豊かな老後も絵にかいた餅のようになってしまいます。さらに言えば人生の晩年こそ快適な住空間を享受するべきだと思います。

地震の多発については表を見てもわかる通り2000年以降大きな地震がほぼ毎年のように発生しています。そして想定外の被害があるたびに基準を強化していることがわかります。2016年の熊本地震では新耐震の住宅の倒壊も確認されています。今後30年以内に大地震が首都圏を襲う確率は70%と言われている時代を生きる私たちはけっして地震の被害を軽視することなく、国の補助金などを活用して住まいの耐震性を担保する必要があります。

経済合理性を考えれば建築の基準を必要以上に高めることは難しいことかもしれませんが、日本の建物に対する考え方は新しい時代に対応する必要に迫られています。人生100年時代のライフプランと共に住まいの長寿命化についても一考の価値ありではないでしょうか。

株式会社ナカムラ建工
代表取締役 中村靖雄
日本工業大学専門職大学院
技術経営(MOT)修士